パイロットと年収3 コロナの影響と将来性

最終更新日 2021年3月11日

全世界に広がるコロナウイルスの影響で、航空会社は未曾有の危機に直面しています。パイロットももちろんその影響を受けています。一部では年収が3割ダウンしたという報道がされています。実際の影響と、年収を含めたパイロットの今後について考えてみます。

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パイロットの年収への影響

パイロットの年収については(パイロットの年収)とう記事でご紹介しました。日本の大手航空会社勤務であれば、昇格したての副操縦士で1000万円台前半、数年して長距離国際線を飛ぶ機種に移行すると2000万円前後、機長に昇格すると2500~3000万円強といったところです。

勤務している航空会社によっても異なりますが、パイロットの給与は勤続年数に比例する基本給と職務手当、飛行時間に応じた手当が大部分を占めており、会社の業績と連動したボーナスの比率はそこまで高くありません。

コロナウイルスの影響で年収が下がったのは、会社の業績が低迷したことにより賞与が減ったことよりも、フライトが減って乗務時間に応じて支払われる手当が減ったことによります。コロナウイルスの感染拡大により世界各国で入国制限が始まった当初は国際線を中心にフライトが激減し、政府から会社に補助される雇用調整助成金でパイロットを含めた従業員の給与が補填されている状況でした。補填されても乗務手当は加算されませんので、結果として3割ちかい減収になった方もいるかもしれません。

現状は、国際線を中心とした旅客便の減便は続いていますが、貨物の需要が高くなってきています。旅行や出張は制限されていますが、日常生活やビジネスを維持するには物資の移動が欠かせません。平常時であれば旅客便に貨物を載せていますが、コロナの影響で旅客便の便数が減っており、航空貨物輸送の供給がかなり減っています。そのため貨物専用の航空便を飛ばしている状況です。

貨物便にも当然パイロットが必要ですので、我々のフライトタイムも従来の時間に戻りつつあります。従って、一時期は減っていた乗務時間に合わせた手当も同様に戻りつつあります。

累進課税の影響で手取り収入の減少はそこまで大きくない

給与収入は税金が源泉徴収されるため節税する方法が限られており、給与収入が2000万円、3000万円になってくると、税金の負担もかなりのものになります。3000万円の給料であれば年間1000万円ほど納税することになり、累進課税により所得税と住民税を合わせた税率は50%近くになるため、それ以上働いても半分は税金で自分の手元に残りません。

コロナの影響で額面の年収は3割近く減ることになっても、元々半分は税金だったので、自分の手取りの減少は15%ということになります。

多くの家庭では、貯蓄に回る金額が減る程度の影響

年収3000万円の手取りは約1800万円で、月額約150万円です。これは日本の一般家庭からするとかなり高額な部類に入るでしょう。教育費の負担などが大きい方でも、生活費で毎月使い切っている家庭は少ないと思われ、贅沢を見直せば済む話で、すぐに生活に大きな影響が出ることは考えにくいでしょう。多くの家庭では貯蓄に回す金額が減る程度の影響でしょう。

会社の倒産リスク

パイロットとして飛ぶための資格のひとつである、航空身体検査証明書には保険をかけられます。半年に一度の航空身体検査に合格できないような病気になれば、60歳、65歳まで手取り額相当が補償される保険が、JAPA(公益社団法人日本航空機操縦士協会)や民間保険会社から提供されており、多くのエアラインパイロットが加入しています。

しかしながら会社の倒産には有効な備えがありません。海外の航空会社では業績が悪化しパイロットが余剰になるとレイオフといって、業績が戻るまで一時的に解雇されます。従業員の権利が強い日本ではあまり考えられませんが、会社が倒産してしまえば、しばらくの間パイロットとして給与を得ることは難しいでしょう。

会社の倒産リスクは、独立して仕事をするのが難しいパイロットにとって一番のリスクかもしれません

飛行機を操縦して海外まで行ける人は少ない。パイロットは世界で通用する資格者。

明日、ボーイング787を操縦してアメリカまで行ってくれ、と言われてできる人はそう多くはありません。会社が倒産すればパイロットは職を失うでしょう。しかしながら、飛行機を飛ばすにはパイロットが必要です。そして、ジェット旅客機の免許、さらに機長として飛べる定期運送用操縦士の免許を取得するには、多くの訓練と飛行経験が必要で時間とお金がかかります。

簡単には取得できない資格と経験であるからこそ、その価値も高まります。技術革新で無人旅客機が一般的になるまでは、パイロットの免許があれば安心といえるでしょう。

そして飛行機のライセンスと操縦時間は世界共通です。例えばボーイング787型機を1000時間操縦した経験は日本でも、海外でも同じ経験としてみなされます。ですから、英語の問題さえクリアできれば世界中で働くことができます。国によっては自国民の雇用確保の観点からビザなどが厳しくなっているところもあります。しかし、移民を積極的に受け入れている国、例えばエミレーツのあるUAEなどは外国人パイロットにも等しく門戸が開かれています。

将来的には技術革新によりパイロットは不要になるのか。

昔はもっと多くの乗組員がコクピットにいた

この点については、賛否両論です。過去にはコクピットに機長と副操縦士のほかに、通信士や航空機関士が搭乗していましたが、技術革新により、現在ではコクピットには機長と副操縦士の2名体制で運航を行うのが主流です。

軍用機をはじめ技術的には無人飛行は可能だが、旅客機ではまだ難しい

現時点においても技術的には一人乗りや無人機での運航も可能でしょう。実際、軍用機では無人航空機が既に活躍しています。ただし、旅客や貨物を搭載している旅客機でそれを実施するのはまだ難しい状況です。

軍用であれば無人機が事故で墜落しても許容されるかもしれませんが、多くの人命や貨物を載せている民間機となると事故は許されず、求められる安全に対するレベルが異なります。

旅客機にパイロットが2名搭乗している理由は、現時点でそれが一番安全だと考えられているからです。コクピットでしか下せない判断はたくさんあります。他にも例えば、一人がミスをしても、もう一人がモニターしていればそのミスをカバーする事ができますし、一人の知識にたよって決めるよりも二人で相談して決めたほうが良い判断ができる場合も多いです。

無人にするよりも、人が機械を使いこなすほうが生産性が高くなる

よく機械化によって雇用が失われるという議論を聞きます。しかし、歴史的な事実に目を向けると、実はそうではありません。
それはこちらの書籍でも紹介されています。

1800年代初頭にイギリスで産業革命が起きた時から、人類は農業経済、工業経済、サービス経済へと移行してきましたが、自動化によって失われた雇用よりも、技術革新で新たに生み出された雇用の方が多いのです。

企業が業務の自動化を望む最大の理由は生産性の向上です。しかし、生産性が最も高まるのは、人間を機械に置き換えた時ではなく、人間が機械の性能を引き出したときであることが、繰り返し証明されています。

パイロットとして得た操縦技術と経験は、飛行機が姿を変えてもそれが飛ぶ限り、その価値を失うことはないでしょう。

”希望があるところに人生もある。
希望が新しい勇気をもたらし、強い気持ちにしてくれる。”
ー アンネ・フランク ー (「アンネの日記」の著者)