パイロットと飲酒問題、SHELLモデルで分析

最終更新日 2021年3月17日

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パイロットとアルコール問題

ここ最近、パイロットが乗務前にアルコールを摂取し、基準値を超えた状態で乗務しようとした事が話題になっています。乗務前のアルコール検査で検知できたものの便の遅延に至った事例や、検査をすり抜けて乗務しようとしイギリス当局に拘束される事態にも発展しています。多くの人命・財産を預かるパイロットが飲酒運転をする事は決して許される事ではないと思います。
多くの報道で事態の詳細や分析がなされていますが、同じような分析は他に多いので、ここでは少し違った視点からこの問題について考えてみたいと思います。

飲酒と航空法

自動車の運転でも飲酒運転や酒気帯び運転は禁止されており罰則もあります。当然、航空機の操縦にも同様の制限があり、航空法第70条に
「航空機乗組員は、酒精飲料又は麻酔剤その他の薬品の影響により航空機の正常な運航ができないおそれがある間は、その航空業務を行ってはならない。」
と定められており、アルコールは当然のことながら、風邪薬などの医薬品の服用などについても制限があり、罰則も設けられています。

このように法律を設けて罰則を規定しても、そのルールを守らない人は残念ながらいなくなりません。厳しい罰則があっても飲酒運転や、その他の犯罪が無くならないのと同じです。
だからといってある少数の人のために、全員に禁酒令を出してアルコールを全て禁止するのは適切な方法とは思えません。飲酒運転撲滅のために日本で禁酒令が出たら大きな騒ぎになるでしょう。アルコール自体はルールを守って楽しめばメリットもあります。
ではどうすれば飲酒運転されるリスクを最小限にできるでしょうか。

飲酒問題をSHELLモデルにあてはめてみると

SHELLモデル概要はコチラ

SHELLモデルとは本来、航空の安全を推進するために考案されたモデルです。今般の飲酒問題に適用するには少々無理もあるかもしれませんが、ここで考えてみたかった事は、違反を犯した本人だけが問題であったのか、また当事者を厳しく取り締まるだけでこの問題を解決できるのか、ということです。

例えば、少しくらいアルコールを飲んで運転しても大丈夫だという社会の雰囲気や、立場が上の人に注意しにくい環境、楽しい場を壊したくない・正しい事を言ったのに煙たがられる雰囲気が、この問題を引き起こしている部分はないでしょうか。
また、お客様の目に触れないデスクワークの人が飲み会の翌日に二日酔いで仕事をするのは会社として許容するのかしないのか。パイロットだけの責任にしないで皆でアルコール問題撲滅に取り組むのかでも差が出てくるかもしれません。

周囲のケア。アルコールに頼りたくなるような個人的なストレスや仕事の多忙。国際線を中心に乗務するパイロットは、時差や徹夜などの不規則な勤務が続くため、思うように睡眠がとれません。どうしても寝付けなくてアルコールに頼ったり、家庭のストレスで飲んでしまうのは、パイロットだけの問題ではありません。相談できるサポート環境の構築や、休む暇もないくらいのスケジュールを組むことも問題の一部かもしれません。

マネジメント体制の問題。発生するたびに個人の責任にして、組織対応を取らないことの問題。過去にも飲酒によるトラブルはどの航空会社でも起きています。欧米では数十年前から国を挙げて取り組んでおり、効果が出てきています。

今回の事例では、地上スタッフが検査機器の使い方に熟知しておらず、正しく検査できなかったということがありました。検査機器は使いやすいものだったのか、検査マニュアルは難解すぎてだれも読まないようなものではなかったのか、なども考えられるでしょう。

このようにして考えてみると、飲酒運転問題を解決するには、様々な観点から解決策を考える必要があると思います。今回こそは本人の問題にする事なく、知恵を集めてアルコール問題の撲滅を達成してほしいです。

”酒は、人を魅了する悪魔である。うまい毒薬である。心地よい罪悪である。”
- アウレリウス・アウグスティヌス - (古代キリスト教の神学者、哲学者、説教者)